名義貸し・架空契約
名義貸しとは、加盟店や第三者に対して自己の名義を貸すことを言います。クレジット取引においては、加盟店等に対して名義を貸し自分は実際に購入していないのに購入したことにするなどして信販会社とクレジット契約を行うといったことがあります。
どのような事情があっても絶対に他人に名義を貸してはいけません。
名義貸しは、契約者と信販会社との契約違反になるのはもちろん、自分の知らぬ間に勝手に名義を使われる名義冒用の場合とは違い、契約者の明示・黙示による行為を伴っており、詐欺罪など何らかの罪に問われる可能性のある行為に巻き込まれる恐れがある極めて危険な行動です。
名義貸しに応じる人のうち多くの場合で名義を貸すこと自体は悪いことだとわかりながらも、加盟店等に言われるがまま「自分にデメリットがないのであれば良いか」と、安易に契約に至っています。しかし、本当に自分にデメリットがないのでしょうか。また、他者にデメリットはないのか、よく考えてみる必要があります。そこでは「知らなかった」では済まされないことが起きているのです。
信販会社に損害を与える行為
このような不正な契約は信販会社が契約者に代わって加盟店に対して立て替え払いする代金相当額を目当てとして行われます。信販会社を欺き立替金を詐取する行為であり、名義を貸すことはこれに協力することに他なりません。
「名義貸し」は様々な理由を付けて勧誘が行われます。シンプルに名義を借りるケースや他の契約などと絡ませて実質負担がなくなるとの文句で必要のない契約をさせるケースなどがあります。また、類似ケースとして50万円の商品(この契約は正規のもの)を100万円であったことにするなどといったことや、空ローンや空クレジットと呼ばれるそもそも架空の契約で現金を手に入れるために行われる悪質なものもあります。
- 絶対に迷惑を掛けないから名義を貸してほしい
- クレジットの引き落とし日までに引き落とされる金額を入金するから大丈夫
- 高齢者で契約できない人を助けるために名義を貸してほしい
- 会社の売上を上げたことにするため支払いは自分がするから契約にサインしてほしい
- 後日、キャンセルするので商品を買ったことにしてほしい
- 名義を貸してくれたらキャッシュバックする
- (以前から取引があり)支払先が変わったので手続きが必要なので契約書に記入してください
- クレジットの引き落とし日までに引き落とされる金額を入金するから大丈夫
- 無料でエステや脱毛をするために形式上、契約したことにする必要があります
- 一定期間は無条件でクレジットの解約ができるから契約しても大丈夫です
- 〇〇の契約の報酬として代金相当額が支払われるので実質0円になります
- 〇〇の無料モニターになってください。いったん契約して頂きますが月々のクレジット支払金と同等のモニター報酬が入金されますので実質無料で〇〇がお使い頂けます
- 既に契約しているクレジットについて、新しい商品を買ったことにして金利が安い別のクレジット会社で組み直しましょう
- (キャンセルや解約を希望したことに対して)信販会社への信用問題になるのでキャンセルはできません。支払いは今後私達が責任を持ってしますので心配しなくて大丈夫です
「実質負担ゼロ」は、携帯電話会社などがスマートフォンの値引き販売をする場合と似ており世の中にありふれた契約であるかのように錯覚しますが、「信販会社への支払金相当額が信販会社以外から戻ってくる」のとでは全く別のケースですのでご注意ください。料金負担ゼロでいいのであればそもそもクレジット契約を結んで買ったことにする必要がないものなので、なぜそうしなければならないかを加盟店等に問い詰めれば何かおかしいということに気付くことが出来る場合がほとんどです。
契約者自身が支払負担しなくて良い有償契約をさせようとしている時点で不正なもの、不正な取引は自身や信販会社に損害をもたらすものだと考えましょう。
「高齢者で信販会社と契約できない高齢者を助けるために名義を貸してほしい」「クレジットを組み替えるために新しい商品を買ったことにしてほしい」などと名義貸しを行うのにもっともらしい理由を付けてくることもあります。この「もっともらしい理由」自体が嘘であることも多いですし、仮に本当であったとしても「高齢者とは契約しない」としている信販会社に対して、「(実際は高齢者との取引となってしまうのに)自身が契約名義人であると仮装して信販会社に取引をさせる」ことをその信販会社は望むのでしょうか?そのような名義を貸す協力が「人助け」であるはずがありません。
契約を行おうとしているということは、既に成年者であり社会人としての一般常識もあるはずです。そもそも「そのような契約を信販会社が本当に望むのか」と考えれば詳細や全容はわからずとも加盟店等が不正な契約を行おうとしていることは常識的に考えればわかることです。
約束通りになれば信販会社にも自身にも損害を与えることはないと思うかもしれませんが、基本的に名義を借りようとする時点で相手方は嘘をついていると考えて問題ありませんし、最終的に信販会社に損害を与えないことはほぼありません。名義貸しに応じる時点で信販会社に損害を与えることを認識しながら行っていると評価されても不思議ではありません。つまり、悪意はなかったとしても名義貸しに加担したと扱われる可能性が十分に考えられるということです。
契約者の責任
原則として契約は契約者の責任となります。名義を貸した者に約束を破られても契約者が支払いを行う必要があります。加盟店等による巧みな誘導や信販会社による管理の態様・契約者の加担の度合いにもよりますが、このように考えておく必要があるでしょう。
また、クレジット契約の契約条項内には契約者が重大な違反を行った場合のことが定められていることが多く、名義貸しが明るみになった場合、分割して支払うという期限の利益を喪失させ残債務を一括で請求されることになる可能性もあります。
単に名義を貸したというよりも、悪徳加盟店と結託し積極的に信販会社からの立替金を詐取したと判断されれば、刑法上の罪に問われることや信販会社から不法行為に基づく損害賠償請求等を受ける可能性も考えられます。
よく見知ったお店や担当者から強く頼まれたとしても強盗や殺人をするでしょうか?銀行口座をあげたり販売したりするでしょうか?これらは社会人として通常は断るでしょう。犯罪を構成するかにかかわらず名義貸しは全て不正な取引ですから絶対に断らなければなりません。
加担の程度
割賦販売法には消費者保護規定があり、それらや他の法令を適用することで加盟店等による悪質な行為から守られる場合があります。ただし、契約者が名義貸しに積極的に加担していたり名義貸しにより利益を得ている等の背信性があるケースは難しいと言えます。
ここで言う「加担する」とは「共謀する」ような意味ではなく、次のような行為等から総合的に判断されるものと考えられます。
- 加盟店等に対し名義貸しの対価となる報酬を要求する
- 信販会社からの契約時の確認電話の際に名義を貸していないと回答する
- クレジット申込書に記載されていない約束事(キャッシュバック、他の目的達成のために形式上契約をしたことにするなど)があるのに契約時の確認電話の際に申告をしない
- 契約時の確認電話以外のタイミングでも信販会社から名義を貸していないかと問われ名義貸し取引を否定する
- 信販会社からのアンケート調査書面等に嘘を回答したり、回答自体をしない
- (実際にはクレジットの対象の商品やサービスが存在しないのに)商品を受け取った・サービスの提供を受けたと回答したり納品書等にサインをする
- 架空の契約であることを理解しながら、加盟店等の求めに応じ何度も名義貸しを行う
そもそも名義貸しに協力しなければ誰も不幸にならないことですが、いずれも正直に実態を話していれば被害が発生しないか極小化出来るものですので、これらをしなかったことは自らをより不利な立場に置くこととなります。
信販会社からの電話確認に対して「虚偽を回答すること」は名義貸しや架空契約という不正行為に「積極的に関与した」と評価され、その負担を免れるために、正当な取引を行った消費者の保護を目的とする割賦販売法等による保護を求めることは、法の趣旨に反して許されないとして保護を受けられなくなる(信販会社への支払いを拒否できない)可能性があります。そのようなことにならないよう、たとえ加盟店等に隠蔽を指示されても必ず正確に回答しましょう。
名義貸し取引の結末
名義貸し取引とは加盟店等による自転車操業・ポンジスキームに他なりません。名義貸しによる仮装した契約等によって信販会社から立替金を詐取した加盟店等は、詐取した立替金から一部を名義貸し契約の月々の支払金に充てることを少しの期間続けますが、早晩破綻することとなります。
契約後しばらく約束が守られることがあるのは、返す意図はあった・詐欺ではないというアリバイ作りのためや信販会社から詐取する資金を拡大するための時間的な都合でしかないと考えたほうが良いでしょう。
約束されていたはずの「月々の支払金はこちらから入金する」といった約束はいずれ守られなくなったり遅延したりすることとなり、信販会社から契約者に対して督促請求が入るようになります。ついには、加盟店等と連絡が取れなくなり途方に暮れることになることでしょう。
繰り返しになりますが、契約者自身が支払負担しなくて良い有償契約をさせようとしている時点で不正なもの、不正な取引は自身や信販会社に損害をもたらすものだと考えましょう。
口止め
名義貸し取引を勧めてきた者は、不正な契約が露呈しないよう契約者に口止めをすることが考えられます。これに応じ信販会社に対して真相を隠す行動は名義貸し取引への加担の度合いを高めることとなりますのでご注意ください。
- (信販会社からのアンケート調査書面などに対して)対応しなくて良い、放置しておいてください
- 信販会社とは話がついているので無視していて良い
- 絶対に大丈夫だから問題ないと回答しておいてください
- こちらで話をしておくので信販会社からの電話には出ないでください
- 【脅迫タイプ】本当のことを話したらあなたも共犯になる
- 信販会社からの確認電話には「ハイハイ」と答えてください
信販会社から契約者に対して調査が行われることがありますが、既に名義貸しに応じてしまっている場合、この調査に対してすべきことは信販会社への告白及び協力・全国の消費生活センターや弁護士への相談でしょう。「調査への対応方法を加盟店等に相談する」ことは間違いなく悪手と言えます。
信販会社の管理責任
信販会社側にも当然、そのような悪質な加盟店を排除する管理責任があります。新規加盟店契約時や定期的な途上加盟店審査など加盟店に対しての調査を行いますが、最も重要な情報源は間違いなく実際に加盟店等と対峙する契約者からの生の声だと言えます。
よく分からない理由で名義貸し取引を勧めてくる悪徳加盟店と一定のコンプライアンス・財務体制が必要となる登録制の信販会社のいずれが信用できるでしょうか?
信販会社からの契約内容確認電話には正直に申告をするようにしましょう。また、聞かれなかったとしても契約についておかしいと思う点は信販会社のオペレーターに事情を話し確認してもらいましょう。これは将来の被害者を救うことにも繋がっています。
時代に合わせて姿を変える悪徳商法
より複雑で巧みになっており、単なる名義貸しとは言えない複雑な形で信販会社からの立替金を目的として行われる悪徳商法も考えられます。
例えば、「SNSのインフルエンサーになってみませんか?今なら無料で有名インフルエンサーによる特別講座が受けられます。」と謳うインフルエンサースクールの勧誘があった場合に、無料であればと契約を決めたとします。しかし、その後、「年間の授業料・入校金の支払いについてクレジット契約をして頂きます」「自身のSNSでスクールの宣伝投稿を毎月行うことを条件にクレジット支払額を全額キャッシュバックします」などと言われクレジット契約を締結してしまう事例です。最終的に宣伝投稿をしているのにキャッシュバックがされなくなるというのは他の例と同様です。
スクール側の理屈として、「毎月宣伝投稿をしない人については無料にしないために、一旦全員クレジット契約(支払い)をしてもらったうえで、条件を満たした人だけキャッシュバックすることで無料になるようにしている」というのはもっともらしい説明に聞こえなくもありません。しかし、そのような約束事を了解する信販会社はありませんので、信販会社からの確認電話には「はいとだけ答えておいてください」「キャッシュバックのことは信販会社に説明済みなので何か聞かれても言わなくて大丈夫です」といった口止めがなされることでしょう。また、そもそもスクール無料受講の条件である宣伝投稿をしない人に対して以後のスクール受講を認めなければ良いだけなのであり、わざわざ信販会社から資金を得る必要性はありません。
同様の形態でエステサロンへの集客業務の報酬など契約の対象や名目を変えて勧誘がなされることがあります。何か契約をする際には「タダより高いものはない」「甘い話には裏がある」ことを強く意識し、疑いすぎるくらいがちょうど良いと思って行うようにしましょう。
結局、加盟店等によるポンジスキームとなっているのは他の名義貸しの例と同様です。信販会社に言えないことがある・口止めがされているような取引は不適正な取引です。このような(契約書に記載されていない)約束事は約束が守られなかった場合のリスクを考え、契約前に十分な時間を掛けて考え直しましょう。(信販会社からの立替金を目的としない現金取引などでも注意しないといけないのは同様です。)
最後にとても重要なことなので繰り返しとなりますが、どのような事情があっても絶対に他人に名義を貸してはいけません。